Sunday, February 7, 2010

自己紹介・横田

【自己紹介】
 日本側メンバーの横田幸信です。東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程に所属しており、主専門分野は自然科学系の機能表面材料や物性物理です。副専門分野として、社会科学系のイノベーション・マネジメントやマーケティングに関する研究や仕事にも従事しています。所属する研究室では渡部俊也教授、吉田直哉助教のもと、光触媒や機能表面材料、濡れ現象、知的財産管理の研究が行われています。
 自然科学の研究では、無機酸化物(現在はアルミナやハフニア、チタニア等)の表面の濡れ現象を研究対象としています。具体的には静的・動的撥水性の高い機能表面材料を開発しながら、同時に濡れ現象そのものについて物性研究も行っています。
 より日常生活に近い表現を使うと、「水をはじくガラス」の開発とその解析を行っています。研究室レベルのものは既に開発済みで、現在民間企業との共同研究を通じて、実用化を目指しています。原料が無機物のため、フッ素等を用いた有機系の市販撥水材料よりも耐久性が格段に高く、生体への影響が少ないことからも、環境に優しい材料と言えます。実用化研究がうまくいけば、「ワイパーのいらない自動車のフロントガラス」が近い将来登場するはずです。
 上記自然科学系の研究と共に、イノベーション・マネジメントをキーワードとして、社会科学系の研究も行っています。ここで「イノベーション」の意味するところは、「社会や人にポジティブで非連続的な変化を生じさせること」としています。東京大学i.schoolでのイノベーションに関する教育プログラムの設計と運営及び、i.schoolのプログラムそのものをケーススタディーの対象として、イノベーションが起こるメカニズムを見いだそうとしています。それらのメカニズムを個人として習得・実践するだけではなく、社会や組織内の仕組みとして設計し、社会の中で持続的に機能するイノベーション手法を構築することが目的です。また、イノベーションが発生するメカニズムの中でも、商品・サービス企画時に異なる分野の専門家によるディスカッションが有効であるとの仮説に基づき、彼らのコミュニケーションをサポートする思考言語と表現言語の整理・開発に関する研究を民間企業研究者と共に行っています。

↓私の研究内容や活動の詳細はこちらでも紹介しています。
http://web.me.com/snowsnow8/yokota8/Top.html




【なぜD-Labか?】
 私は、「モノ作り」の研究に携わる者として、日本を始め先進国の産業界(特に工学分野)がいつの間にか採用してしまっているモノ作りのコンセプトに対して、私なりの懸念と理想を持っています。
 これまで、工学分野における研究開発の目的は、大まかに言うと、「研究対象となる技術の物性的機能を高くすること」でした。機能が高い商品は、一般的にはより高い価格で販売出来、経済市場の中では、より高い利益を得ることが出来るからです。特に日本においては、中産階級の人口構成比が高いこともあり、高機能な商品を開発し、より高価格で販売していく事業戦略が取られる傾向が強くありました。
 しかしながら、特に日本において、近年は高機能な商品を製品化しても、その機能や価格の高さが仇となり、それを使用する人の財力や身体能力、知力によって、使用出来る顧客が少ないため市場が小さくなってしまうという現象が起こっています。例えば、携帯電話端末の市場では、その現象が顕著に見られます。生産者にとっては、巨額の開発費を費やしても、期待されるほどの売上が稼げず、利益率を下げてしまいます。生活者側は、本来ならばあまねく享受されるべき自然科学や工学の進歩を受けられていません。つまり、生産者と生活者の双方に不利益を生じさせています。高額な研究費を国費によってサポートされている工学系の科学者や技術者、モノ作り系の高度な専門教育を受けている学生は、彼らの研究や学習の成果を「一部のわかる人や使える人」のみに届ければよいのでしょうか。私は決してそうは思いません。その恩恵は、全ての人にあまねく享受されるべきであると考えます。
 私自身は自然科学の研究を通じて、「生活者からみた機能性は高いものの、環境負荷が少なく、地理的に人的にも汎用性が高い製品」の創出を目指しています。そして、他の日本のモノ作りに関わる企業や技術者に対しても、そのようなコンセプトに基づいた製品開発に興味を持って頂くことを期待しています。
 ここで、大切なのは、「生活者側からみて高機能」という概念です。これまでの工学的研究や経済活動は、前述の通り「研究者や技術者からみた物性として高機能」を追求することでした。これからは、物性としての意味合いだけではなく、製造や物流時の環境負荷、価格、汎用性、機能の持続性、メンテナンスの平易さ、廃棄時の環境負荷まで含めて商品としての機能性を評価されるべきだと考えます。自然と社会、経済の面で循環出来る商品が理想です。
 しかしながら、「生活者側からみて高機能」な商品を生み出す工学的研究や教育は、少なくとも日本では全く行われておりませんでした。「物性的に高機能」なものをいかにして作り出すかという教育のみが行われてきました。
 私が現在関わっている東京大学i.schoolは、「生活者側からみて必要な商品やサービスを見いだし形にして、社会にイノベーションを起こす力」の習得を目的とした教育プログラムを提供しています。D-Labの教育コンセプトもまた、その根幹となる考え方は同様だと理解しています。BoPという、私も含めた日本の大学生からは地理や文化、自らの精神的にも遠い環境を必死に洞察し、そこで生活する人達が真に必要とするモノを設計、既存の技術を組み合わせて形にする経験は、これからの日本の工学分野に必要な人材を育成するよい機会になります。また、そのような能力を備えた人物が、日本の工学分野における新しい種類の経済活動の隆盛を担う人材になるものと信じています。

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